復職支援の本質を問う


復職支援とは、単に「戻すか戻さないか」を判断する行為ではありません。
高尾メソッドにおける「業務的健康管理」の視点から見ると、
それはもっと深く、実務的で、かつ誠実なマネジメントの営みです。
誤解されがちな復職判断の本質を、少し掘り下げてみます。


高尾メソッド=復職を拒む手法?
──実は、よくある誤解です。
実際はその逆で、「しっかり治って、通常勤務できる状態になれば、
職場として受け入れる」ための実務設計を整えた手法です。

​厚労省ガイドラインや判例に照らしても、復職可否の起点となるのは
「休職事由がすでに解消しているかどうか」であり、メソッドでも
それは同様です。


たとえば、もともとローパフォーマーだった社員に対して、
「10割の実力が出せる」と確信できなければ復帰NG──
というような運用はしません。

復帰判定をクリアし、本人が“会社の求める水準でしっかり働く”と、
背伸びしてでも明言すれば、復帰を認めることもあります。

これは“究極の建前”でありながら、運用上とても大事な視点です。

​復帰後に問題があれば、通常マネジメントで対応する
復帰後に業務や勤怠で問題があれば、通常どおり指導・注意・懲戒を行い、
改善がなければ普通解雇も辞しません。

ただし、実際には、適切な指導や業務対応によって“許容ライン”に到達する
社員も少なくありません。

拒まず、通常業務レベルを求めて責任も問うスタンス──
それが現実的なメソッドの運用です。


​片山組事件
このようなスタンスの大切さを、あらためて浮かび上がらせるのが
「片山組事件(1986年)」です。

「片山組事件を引き合いに出す程度で簡単に反論できるものではない」
(『健康管理は従業員にまかせなさい』第2版/高尾総司先生)
この一文は、復職支援の議論を法的な表面論に留めてはならないという
警鐘でもあります。


【片山組事件(1986年 最高裁)】
会社が復職希望者に対し、原職への復帰が困難と判断しながらも、
配置転換などの可能性を検討せず、形式的に「休職期間満了による自然退職」
と処理したことが争点となりました。

裁判所はこれを「実質的な解雇」であり、かつ「解雇権の濫用」として
退けました。

この判例をもとに「原職復帰の原則はもう時代遅れ」と見る向きもありますが、
メソッドは明確に立場を示しています。
「職場は働く場所である」
復職とは、「医師が復職可能といったか」ではなく、
「その人が通常勤務できる状態かどうか」で判断されるべきです。


復職支援を“制度”だけで終わらせない
この原則に基づき、メソッドでは復職を支える実務設計
(判断プロセス・対応ルール・有期的な配慮措置など)を整えています。

法の条文や判例のみに頼るのではなく、日々の現場で積み重ねる
“判断の型”こそが、職場も従業員本人も守るのです。

「自然退職」という言葉に安心してはいけません。
問われるのは、“何をどこまでやったか”の中身です。

ルールと運用の距離を埋める実務がなければ、どんな規定も無力です。

だからこそ、運用まで設計された職場こそが、真に強いのです。



復職支援とは──
治療と業務のあいだを丁寧につなぐ営み


復職支援とは、単に「戻すか否か」を決める制度運用ではありません。
本人がしっかり療養し、通常勤務が可能な状態に戻るまでの過程を、
誠意を持って、焦らず一貫して、制度として運用する営みです。

──それが、現時点での私なりの答えです。